阿川弘之の小説「カレーライスの唄」を読みました。僕は阿川弘之さんの著書は読んだことがありませんでしたが、書店で並ぶ背表紙の中に、何とも可愛らしいタイトルを見つけて、ジャケ買いならぬ、タイトル買いをしてみました。そしてこれが、何とも大当たり。
あらすじ
話の舞台は1960年代前半、戦後の高度成長時代の東京です。今にもつぶれかかった出版社「百合書房」に勤める主人公の「桜田六助」。夏目漱石の坊ちゃんのように一本気で不器用な彼は、会社のため、自身の担当作家「大森貞一郎」のために奮闘を重ねるも、結局会社は倒産。
失業者となった六助は、百合書房での散々な人間関係に嫌気がさし、自分自身が一国一城の主になれるような仕事を考え始めます。そこで思いついたのが、美味しいカレーライスのお店。百合書房での同僚であり、ヒロインでもある「鶴見千鶴子」と協力しあい、夢のカレーライス屋の開店を目指します。
スパイスたっぷりのカレー
ざっくり説明するとこんな感じ。特に大胆なストーリー設定や、派手な演出なんかは何もないのですが、うぶな二人が少しずつ接近しながら、少しずつカレーライス屋開業へ近づく姿を想像すると、本当に心が温まります。
しかしながら、ただただ明るい青春小説というわけでもなく、父親を戦犯として処刑されたという厳しい過去を持つ六助。父の死の真実を知り、戦争が生む人間の業について考える姿が、物語に陰影を与えます。
そして一人として欠けることを許されない、個性豊かな登場人物たち。
これら全てのスパイスを混ぜ合わせて出来上がったのが、この「カレーライスの唄」なのです。
とにかくほっこり
主人公の六助とヒロインの千鶴子の純朴な人柄が、何とも好ましくて、一行一行話が進むたびに、彼らと一緒に歓喜したり、落胆したり。何だかとても心が温まる不思議な小説です。
面白くてどんどん読み進めてしまうんですが、ページが少なくなると何だか寂しくて、少しずつ読み進める努力をしたりしました。こんなこと久々です。
読了後は、とにかくほっこり、そして充足感に満たされるような、とても良い本でした。