2016年7月7日、永六輔(えいろくすけ)さんが83歳で亡くなられました。永六輔といえば、戦後、草創期のテレビ、ラジオ等の放送関係、作詞、文筆業など、様々な分野で活躍した、今で言うマルチタレントですね。有名なところで行くと、「上を向いて歩こう」、「こんにちは赤ちゃん」などの作詞でしょうか。
この「悪党諸君」は、彼の幅広い活動の内のひとつ、「刑務所慰問講演」の一部をまとめた本です。刑務所慰問なんて聞くと、堅苦しい演説を想像してしまいますが、そこは永さん節と言いますか、受刑者を爆笑の渦に巻き込んでの、自由奔放な小話が満載されています(笑)
女性に成りそこなったのが男性?
本書には、永さんが過去に周った4つの刑務所での演説がまとめられています。多彩な観点から、人生の素晴らしさ、不思議さについて語られていますが、その中でも、特に重点的に話している話題が一つあります。
話は50歳になった永さんが、ふと抱いた疑問から始まります。「男の乳首は何の役にも立たないのに、どうしてあるんだろうか?」その疑問を、医学博士から哲学者まで、様々な人に尋ねながら、ようやく答えを知る大学教授に出会います。以下、本文からの引用です。
「すべての男性はお母さんのお腹の中で女としてスタートします。女としてスタートしていきながら、いろいろと、ちょっと足りないものがあったりして、女でいられなくなっちゃって、落ちこぼれたのを男っていうんです(笑)だから、人間の質からいうと女の方がずっと質は高いんです。ダメになっちゃったハンパ者が男なんです。
男の胸に残っている乳首は、お母さんのお腹の中で最初、女だったときのなごりが胸に残っているんですよ」
全ての男性は、みんな女性だったなんて、衝撃的ですね(笑)このような観点から、女性受刑者には「人間の生命を作って育ててきた、女性の身体の素晴らしさ」を伝え、男性受刑者には「素晴らしい身体を持った女性を、男は大切にしなければいけない」、と伝えています。
受刑者を救う演説
本書にも記されていますが、日本の刑務所には、たくさんの非常に厳しい規則があり、その中の一つに「受刑者と職員の間の私語を禁止する」というものがあります。私語を交わすと受刑者は懲罰になり、職員は懲戒される場合もあります。
このように、社会から途絶され、刑務所内でも通常の人間関係が絶たれた受刑者にとって、永さんの明るく前向きな演説は、多くの受刑者を救ったのだと思います。
刑務所を歩いていて、それから数年して以前入ってて会いにくる人、挨拶してくれる人、それから、「わざわざありがとうございました」って「あなたの話を聞いて今こうしてやってます」って言いにきてくれる人がいるわけです。そういうとき僕はね、あ、ひとり救えた、あ、また救えたっていう実感はあるんですよね。
本文より
生きる気力がもらえる1冊
本書は、刑務所にいる「悪党諸君」に向けて語られた講演集ですが、シャバにいる僕らにとっても、勇気づけられる言葉の数々が収録されています。また、受刑者の人権や、現代の刑務所の問題など、深く考えさせられる点の多い、良書でした。まあ単純に、永さんのお話で爆笑すること請け合いですよ(笑)