中島らもの「僕に踏まれた町と僕が踏まれた町」を読みました。この本は、作家である中島らもの学生時代についてのエッセイをまとめた作品で、これがべらぼうに面白いんですよ。
僕は中学時代にこの本と出会って、その後何十回も読み返しました。生きる上での大切な事がたくさん詰まっている、とても良い本です。
底抜けに明るい灘中高時代
中島らもの通っていた灘中・灘高って、全国トップレベルの偏差値の学校なんですよね。そんな超難関校に学年8位のトップレベルで入学した”らも”。しかし、悪友たちと共にロックや酒にのめり込んで行き、成績は面白いくらいに低下。
校庭の砂場で巨大な女体のオブジェを作ったり、校内で酒を飲んでいるのが教師に見つかって、酒ビンを抱えて学校中を逃げ回ったり・・・。バカバカしいんだけど、ホッコリしてしまう。そんな学生時代の甘酸っぱいエピソードで、前半は構成されています。
モラトリアムの闇に包まれて
受験が近づき居場所を無くした不良少年たちは、ジャズ喫茶にたまっては、鬱々とした日々を過ごし始めます。先の見えない不安を胸に隠しつつ、何ができるわけでもない自分。そんな底なしの泥沼のような暗さは、多くの人が体験したことがあるんじゃないでしょうか。
中でも、浪人時代に自殺してしまった友人を振り返った一文が、とても印象に残っています。
こうして生きてみるとわかるのだが、めったにはない、何十年に一回くらいしかないかもしれないが、「生きていてよかった」と思う夜がある。一度でもそういうことがあれば、その思いだけあれば、あとはゴミクズみたいな日々であっても生きていける。だから「あいつも生きてりゃよかったのに」と思う。
深い闇の中でも希望を信じる、中島らもの本質がよく出ていると思います。僕自身、将来の見えなかった学生時代、この言葉には何度も励まされました。
中島らもの優しさが詰まってる
辛く苦しい時代を経験してきたからこそ、中島らもは本当の意味での優しさを知っている人だと思います。この本全体に漂う居心地の良さの正体は、読者に寄り添ってくれる”らも”の優しさなんじゃないかな。心にポッと明かりを灯してくれるような良書です。
ちなみに気になった方もいるかもしれませんが、写真は、僕がモラトリアム時代に勝手に作ったオリジナル表紙です。あまりに思い入れが強すぎて、こうなりました(笑)